里山クヌギ化計画 (1)2010年11月27日 15:24


「里山再生計画~竹林化阻止とクヌギが果たす役割の巻」~www

 最近、生物多様性という言葉をよく目にするようになりました。しかし、なにか判ったようで判らない気がします。一言でいえばたくさんの生き物同士のつながりのようですが、生物多様性保全の必要性というと具体的にどのようなことを指すのでしょう。
 また、生物多様性と一緒にCOP10という言葉がセットになっています。COPとは条約の締約国会議のことでいろいろな条約の中の一つに生物多様性条約があり、今回はその10回目の締約国会議なのでCOP10と呼んでいます。
 生物多様性条約の目的を要約してみました。
① 生物を生育環境とともに保全
② 生物資源の持続可能利用
③ 遺伝資源利用からの利益配分
 これをみると①の生物&環境のセット保全はともかく②の資源利用や③の利益配分になるとエネルギー資源や食糧資源みたいに話が生臭くなってきます。そもそも①の生物・環境の保全も人間が自然から受ける恩恵。つまりは人間中心にした「生態系サービス」の維持・向上を目指すためのものであり、ゾウやライオンましてやオオクワを保全しましょうってことじゃないですね~

 条約はともかく生物多様性保全の趣旨は陸上や水中のさまざまな自然の中に住む生物たちが互いにつながって生きていることを念頭にその種や生存環境を守っていくことにあります。
 身近なところでは生物多様性の保全面から里山のことが話題になっています。里山とは「村里家近き山を指して里山と申し候」の語源通り人間と関わりながら維持され持続可能な利用がされる畑山地区のことですが、地元の里山は荒廃が進んでいます。
 高齢化や農産物の価格低迷で耕作放棄された農地が増えているのも原因の一つですが、栽培林や雑木林に人の手が入らなくなったことが荒廃を進めている大きな理由です。




(管理されていない杉林。杉も根が張り切れず土砂崩れが発生する)

 父の話だと昔は雑木林ですら枯れ枝1本落ちていない整然とした状態であり、「生木を切るべからず」の看板もあったそうです。その時代、昭和初期まで家庭の熱源は殆どを薪や炭でまかなっていました。その熱需要を満たすため山には薪山と呼ばれる場所が各地に存在し、薪山は定期的に伐採と植林が繰り返し行われました。このように持続可能な利用することによって里山の雑木林が保たれていたのです。

 戦後になると家庭の熱源は石油・ガスの化石燃料に移行し、薪山の存在価値は低くなりました。また、折からの高度成長期と重なり住宅や建材用途の杉・檜への転換が進み(その時期一斉に植えられた杉・檜が現在どのような影響を与えているかはご推察の通りです。)残された雑木林も人の手が放れ、新陳代謝が起きにくい状態になっています。



(耕作放棄されたみかん畑。2~3年で葛に呑まれた)


(雑木林の竹林化。上空は笹に覆われ低木は淘汰される)


 このような状態を荒廃と見るか極相化への課程と見るかでは見解が異なりますが、耕作放棄された農地での葛(クズ)の大繁殖や外来種である孟宗竹林の拡大による山の緑の単一化は植生の多様性からみても好ましくない状態であると思います。

 元々この地域の木材の利用方法は燃料用途でした。したがって長期間かけて成長する太い木材は不要であり、短期間で(といっても10年単位ですが…)成長の早いクヌギ・コナラ等落葉広葉樹が好んで植林されました。

 燃料以外の利用方法として広葉樹の萌芽更新を利用した緑肥への活用があります。クヌギは幹部を残して伐採すれば翌期には伐採部から萌芽更新が起きます。この萌芽部分を「ひこばえ」と呼びますが、若くて柔らかいひこばえは刈り取って田に鋤き込み肥料にします。また、若枝はすべて刈り取らず一部を残し成長させれば再び薪炭や椎茸栽培用のホダ木に利用することができます。定期的に剪定を繰り返すうちに元幹は太く、刈り取った部分は瘤状に成長します。この行程を数十年から百年単位で繰り返し経た状態がいわゆる台場クヌギと呼ばれるものです。山梨が有名ですが県中部の椎茸栽培が盛んな地域にも見ることができます。



(この項は山口進著「米が育てたオオクワガタ」に詳しくあるのでご一読を)


 台場クヌギとオオクワガタの関係は人間の持続可能な営みの中から生まれたともいえますが、終わりにしようとしているのも人間です。数百年かけて環境を作ったのも人ですが十数年で壊したのも人です。化学肥料の導入でクヌギの緑肥は不要になり新しい台場は必要がなくなりました。古い生きた台場も別の目的のため破壊されつつあります。

 現在地元で巨木化しているクヌギはもともと父が子供の頃(約70年前)に薪炭にするために植えた木です。必要性がなくなったため切られず残り、太いまま上に伸びて成長し極相化しました。本来この地域における極相はシイやカシの照葉樹帯です。しかし、人的攪乱によってクヌギやコナラの落葉広葉樹帯が出現するそうです。そのためであるかは不明ですが、自生しているクヌギからドングリが落ちても新たに発芽して若木が育ちにくいのも本来の植生に合わないためか、極相で固定化された場所での代謝が阻害されていることが原因かもしれません。

 生物多様性に関わる活動は広義で曖昧であり、具体的行動に結びつかないことが多いと聞きます。しかし自分の活動領域で考えてみると小さなことですが、なすべきことの答えが見つかるように思います。
 具体的には、里山の一部は広葉樹林に変わって孟宗竹林が領域を広げています。竹は成長が早く1年で林の最高点まで達し、侵食された場所の低木は数年で駆逐されてしまいます。逆に竹林化が進んでいる場所で単に竹の伐採を行うと今度は代わって葛が繁殖し一面を覆い尽くしてしまいます。広葉樹林を回復させるためには孟宗竹の代替種を育てる必要があります。そこで広葉樹雑木林の再生その役割をクヌギに引き受けてもらうこにしました。クヌギを選ぶ理由はもちろんクワガタへの趣味的関心があること。そして椎茸栽培への目的利用「生態系サービス」の継続的な利用が可能だからです。

 幸い自分にはそれができる環境があります。ただしその目的に達するための制約は、物量もさることながら時間によるところが大きく最低十年単位の期間が必要となます。トトロが近くに生息していれば話は別ですが一朝一夕にできることではありません。かといって時間の長さに躊躇すれば先送りになってしまいます。米作りもみかん作りも何年やっても年一勝負です。今できることをしないで時期を逃すと次は1年後ですから。

いずれにせよ里山のクヌギ化は木の長~い計画になりそうなのでのんびり行きます♪
長い駄文にお付き合いありがとうございました(笑)

詳しい写真つきはコチラ→http://blogs.yahoo.co.jp/uminofarm/20462871.html

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